わが国の遺伝子組み換えマウスにおける各種病原体に対する感染状況

(財)実験動物中央研究所
             ICLASモニタリングセンター
高倉 彰     


 近年、マウスを用いた動物実験の中心は、国際的に見ても遺伝子操作マウスにシフトし、わが国の大学・研究所においても、それらマウスに関する研究・開発が盛んに行われている。それにともない、当センターに対する微生物モニタリングおよび感染症診断の依頼件数も増加している。この理由は、大学・研究所の微生物学的管理意識の向上と国内外における動物の交流が盛んになり、そのためには健康証明書の添付が必要になったことであると思われる。

 さて、2002年に当センターにて実施したこれら施設の各種病原体の汚染状況を見てみると、細菌では、P.pneumotropica, M.pulmonis, H.hepaticus, P.aeruginosaそしてS.aureusが、ウイルスではMHVが検出されている。そして寄生虫では、ネズミ盲腸蟯虫、ネズミ大腸蟯虫、消化管内原虫そして外部寄生虫が検出され、他ではP.cariniiが検出されている。細菌、ウイルスでは、特にP.pneumotropicaが16.2%、MHVが6.9%と高い検出率を示しており、寄生虫ではネズミ大腸蟯虫(11.0%)そして消化管内原虫(33.6%)が高い値を示している。P.pneumotropicaやMHVが高い検出率を示している状況は、この過去から続いており、これら病原体に対する警戒は今後も必要であることは言うまでもない。また最近の傾向は、寄生虫感染の検出率が高いことであると言える。この理由としては、遺伝子操作マウスの多くは、コンベンショナルな環境下で作出され、それが各施設に導入されているのが考えられる。これら寄生虫には病原性はないが、寄生虫汚染施設と非汚染施設の他微生物汚染状況を比較すると、汚染施設のほうが、P.pneumotropicaやMHVそしてM.pulmonisなどの汚染率が高い傾向を示していることから、これら寄生虫汚染の有無を無視することはできないと考える。

 さて、今後の課題として挙げられることは、これらマウスのモニタリング体制はこのままで良いのかということである。つまり遺伝子操作マウスには、免疫系を操作したマウスが多く存在することを考慮しなければならないと言うことである。たとえば、P.pneumotropicaは免疫機能が性状なマウスに対しては病原性がなく、病原性別カテゴリーのランクを下げる考えが進んでいるが、免疫不全動物に対しては重篤な肺膿瘍を形成する。またHelicobacter属やP.cariniiも免疫不全動物に対し強い病原性があることが知られている。したがって今後は、通常のマウスに対しては、非病原性あるいは日和見病原体とされ、重要度が低かった微生物に対する対応を考えていく必要があると言える。  
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