東北大学医学部附属動物実験施設で経験したMHV汚染とその後の対策

東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設

末田輝子

 MHVは世界中に蔓延している最も発生頻度の高いマウスのウイルス感染症である。当施設では2000年と2002年にMHV感染事故を経験している。本文ではこの2つの事例を紹介しながら,感染対策,感染予防対策等を示す。

 事例1:2000年10月にK大学より7匹のTgマウスが搬入され,その2週間後にこれらのマウスがMHVに感染している可能性があるとの連絡を受け,確認検査の結果陽性が判明した。その後の感染拡大規模を調べる過程で,PCRによる遺伝子配列の検索により全く別の型のMHVが検出され, 2つの感染源があることが分かった。しかし,後者の感染源は特定出来なかった。感染拡大が広範囲であったため,MHVの完全撲滅を目指し,MHVの陽性陰性を問わず5階と6階の全飼育室から全マウスを処分・搬出し,徹底的に清掃消毒を行った。被害は実に9,000万円と見積もられ,さらに大学院生の卒業延期など多大であった。この時、検疫体制の確立,微生物モニタリング方法の改善,飼育管理や洗浄室作業などのマニュアルの徹底的な見直しを行った。

 事例2:2002年3月に行った定期的微生物モニタリングで307号室がMHV陽性を示した。直ちに当該飼育室を閉鎖し,確認検査を行ったところMHV陽性を確認した。また,遺伝子列の配検査によって事例1の再感染ではないことを確認した。幸いにも事例1での教訓が生かされ,1部屋への封じ込めが成功し、最小限の被害で済んだものの,感染源は特定できなかった。この事故は,厳密な検疫にも限界があることを印象づけた事故であった。

 早期発見と予防(モニタリングと検疫と教育):微生物モニタリングに於いて、ケージ交換時に使用済みの床敷きと糞便を新モニターケージに一つかみ入れる方法は感染微生物の早期発見に有効な方法である。また,当施設では2003年10月までに51件の検疫を行った。これまでMHVなどの重篤な病原微生物は検出されていないが,約3割から緑膿菌や蟯虫が検出され、清浄化を行った。感染症の予防には全職員の感染症に対する意識を高め持続させることが必要である。これには日頃の感染教育と情報の共有が大切である。今後も検疫体制とモニタリング体制の強化,そして2度のMHV感染の経験と教訓を生かし,より堅固な感染防御体制を確立していきたい。

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