北米における動物実験の規制
秋田大学医学部 松田幸久
米国で研究、教育における動物の使用を規制している法律や規則は基本的には連邦政府が主管している。しかし、州や地方によってはそこの法律がある種の動物の獲得や使用に影響を与えている場合もある。以下にシカゴ大学を例に動物実験を行う際に従わなければならない機関あるいは法律、規則、指針をあげる。
1.USDA(United State Department of Agriculture) の役割
1966年の動物福祉法成立以来、動物の福祉問題をUSDAが管轄している。
USDAの活動には以下のものがある。
1)研究機関から提出された保証書の確認
研究機関はUSDAに登録し、必要事項を記載した保証書を毎年USDAに提出しなければならない。
記載項目としては
USDAはこれらのこれらの書類を報告書にまとめて上院議会に提出しなければならない。
2)査察活動
動物福祉法の監督と実施はUSDA内にあるthe Veterinary Services Division of the Animal and Plant Health Inspection Service(APHIS)の責任である。査察計画はワシントンにいるanimal care stuffにより企画され、全国各地にいるVeterinary Servicesの職員によって実施される。法律を遵守していることを確認する査察は事前通告なしに、大抵3か月に一回の割合で行われる。
USDAは査察の結果をまとめ、上院議会に報告するためのannual reportとしてファイルする。法律に違反している場合には告訴するためにUSDAのOffice of General Counselに報告書が転送される。
2.NIH(National Institution of Health)の役割
NIHのthe division of the Public Health Service, Department of Health and Human Serviceは医学生物学研究への資金援助を行っている。動物実験を含む研究計画において資金援助(grant)を求める場合には、動物の取扱に関しNIHの方針に準拠することが求められる。
NIHの動物取扱の基準はthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(Guide)に要約されている。この冊子はthe National Research Councilのthe Institution of Laboratory Animal Resources(ILAR)によって書かれ、改訂されている。
Guideに含まれる項目
NIHは通告なしであるいは通告して直接施設を査察することもあるが、IACUCによる内部査察と毎年提出される研究機関の保証書を通して研究機関の自主的な規制を信頼している。
1)内部査察の要求
NIHの規則はIACUCが動物施設の内部査察をすることを要求しているため、IACUCは動物が飼育されまた実験に使用される全ての場所を査察しなければならない。そして全ての管理運営、獣医学的処置および取扱がGuideに準拠していることを確認しなければならない。IACUCはsemi-annual reportsを通して動物の取扱の状態を大 学の担当責任者(officials)に通知することが要求されている。また、規則に準拠していない区域があった場合にはIACUCは個々に説得し、規則に準拠するよう修正のための猶予期間も含め助言しなければならない。IACUCの指導にもかかわらず規則が守られない状態を継続している場合にはIACUCは直接NIHに報告しなければならない。もしNIHがその違反を重大であると見做した場合には研究機関全体の研究活動が危険に曝される可能性を含んでいる。即ち、連邦からの全ての資金援助(当該研究だけでなく、研究機関全体に対する資金援助)が停止される。
2)保証書の申告
NIHのgrantを受けるためには大学はすべての基準がGuideに準拠していることを証明しなければならない。IACUCからの毎年の報告書に基づき、大学の担当責任者はNIHのGuideに準拠していることを証明する保証書に署名し、それをNIHのOffice for the Protection of Research Risks(OPRR)に提出する(大学自体でも保管しておかなければならない)。この保証書の一部として、大学はIACUCによって行われた内部調査/査察のコピーを提出することが要求される。IACUCのメンバーの名前と信任状がその内部調査書に添付されなければならない。
3.AAALAC(American Association for the Accreditation of Laboratory Animal Care) の役割
AAALACは動物の取扱全般に関し洗練された管理を促進するために貢献しているボランティアの認定組織であり、25以上の主要な科学研究機関(the American Medical Association, American Dental Association, American Hospital Associationを含む)を代表している。AAALACは実験動物施設を評価するための基本的な基準としてGuideを使用している。AAALACによる認定は Guideに記載されている原則に準拠していることを証明するものとしてNIHから高く評価されている。しかし、USDAは動物福祉法に準拠している保証としてAAALACの認定を受け入れていない。それはAAALACとUSDAのプログラムがやや異なる目的をもっているためである。
4.GLPs (Good Laboratory Practices)
USDAの動物福祉法は動物を使用する全ての研究、教育に適用され、またNIHは研究機関全体の資金援助に関与する。しかし、GLPsは新製品の許可を得る場合にのみ従わなければならない規則であり、Food and Drug Administration(FDA)が主管している。したがってGLPsはFDAと契約した研究者をもつ施設だけが対象となる。もし研究者がこのような契約の基に研究をしているならば、動物実験施設長はこれらの規則に適応するように特別な配慮ししなければならない。
5.絶滅の恐れのある動物種の保護 (Conservation of Dangered Species )
大学は絶滅の恐れのあるを動物種を保存し絶滅を防ぐ全ての連邦の法律に従うことを要求される。この法律(Public Law 93-205)を主管している法的機関はSecretary of the Department of the Interior(内務省秘書室)であり、Fish and Wild life Serviceによって施行されている。この法律は絶滅に瀕している種を保存するために作られたものであり、世界中の野生植物群、動物群を保存するために必要な処置がとられている。霊長類や絶滅の恐れのある他の野生の動物を輸入し、飼育するに当たっては動物実験施設が全ての適切な許可を取得しなければならない。
6.州および地方の法律
大学は動物の管理および統御に関する州および地方の法律に従わなければならない。これらの法律は動物管理センター(public pound)からの動物の譲渡をコントロールしており、動物虐待を意味するものでないことの法的定義を与えている。
以下にシカゴ大学の動物実験に関するThe University of Chicago Manual on Laboratory Animalを示すが、このマニュアルは上述の法律、規則、指針に基づいて作られている。
シカゴ大学動物実験マニュアルから
1.はじめに
実験動物を倫理的に取り扱うことは優れた研究を行う上での基本であり,すべての実験は倫理的な配慮のもとに行われなければならない。倫理的な配慮への最終責任は個々の実験者にあるが、実験動物が倫理的な取り扱いを受け、動物実験が法律や規則に準拠して行われていることを法的機関に保証する責任は動物実験委員会にある。
2.シカゴ大学の内部規則
シカゴ大学は動物の取扱と使用を規制している法律、規則そして指針に準拠していることをUSDAに対するannual report により証明しなければならない。この報告は動物福祉法が要求しているものの一つであり、この法律は動物の取扱と使用に関係する全ての人々によって守られなければならない。
さらに、大学は連邦の各種資金援助機関より求められる動物の取扱と使用に関する方針に従わなければならない。そのような資金援助機関の筆頭はNIHである。大学はNIHのOPRR(Office for Protection from Research Rsiks)に対し毎年保証書に必要事項を記載した手紙を出し、NIHの指針に準拠していることを証明する。
動物を用いた研究を行うにあたりUSDAへのannual reportとNIHへのannual letterの両方で連邦から資金援助を受けるに相応しいことを主張する必要がある。
以下の項目はNIHのGuideを要約したものであるが、研究者が遵守すべき基本原則を示している。研究者はgrant申請時に,NIHのGuideを遵守する同意書に署名することを求められる。
上述の項目以外にも関係当局の適切な法律、規則、指針には特別な事項等(例えば輸送や繋留のための事項)が詳述されている。病気の統御と防止、安楽死あるいは適切な獣医学的管理等の事項については、法律では獣医師の監督下に(under the supervision of a Doctor of Veterinary Medicine)適切な処置が取られなければならないとされている。法律とguideでは“研究機関は動物の管理と使用に対する方針を定め、その方針を実施するために研究機関にACCを作ること”を要求している。各学部は大学のACCによって定められた研究機関の方針と連邦の法律に準拠することが要求される。
シカゴ大学のARC(Animal Resource center)にはUSDA、NIH、 ACC、大学、ARC、その他の機関が定めた法律、規則に適合しているか否かを検討する法的適合性および訓練部門(Compliance and Training Section)、がある。この部門のもう一つの重要な活動は実験者に対する指導であり、研究者や動物を飼育している施設職員に対する訓練のプログラムはこの部門が担当し、ACCと協力して行っている。
大学では研究者から提出された動物実験計画書をACCが審査し,全ての研究者が法律、規則、指針を遵守していることを文書で証明することを要求する。大学のメンバーが法律や規則指針に準拠しなかった場合には大学内で行われる動物実験に関連する全ての研究に対し連邦の資金援助が危険に曝され、最終的には大学の他の機能に対する連邦の資金援助もさしとめられる事態となる。
以下は各学部のメンバーが動物に関する法的、倫理的責任を実行する上で必要な冊子のリストである。
3.動物実験委員会 THE ANIMAL CARE COMMITTEE
1)委員会の義務
NIHのPolicy on Human Care and Use of Laboratory Animalsと動物福祉法の両方から研究機関のACC(IACUCとも言われる)に以下の義務が要求される。
ACCは基本方針に関わる問題を考えるためと研究者から提出された実験計画書を苦痛のカテゴリー毎に分類して審査するために一週おきに会合を開く。
2)委員会の構成 MEMBERSHIP
ACCの構成はPublic Health Service Statementに詳述されている。委員は大学の学長によって任命され、シカゴ大学の事務総長に届け出る。委員の任期は一年間であるが、さらにその後の二年間も責任がともなう。
メンバーの構成は次の通りである
3)実験計画書の審査 PROTOCOL REVIEW
ACCは動物を使用して行おうとするすべての実験あるいは既に進行中の実験の変更に関して提出された計画書を審査し承認することが求められる。幾つかの外部資金援助機関(例えばNIHやNFSのような)はACCによる審査、承認の証明書がなければ、その研究に対して資金援助をしないであろう。この責任を果たすために、ACCは動物を使用する研究に対する実験計画書の様式(研究代表者が記入し、ACCの審査のために提出される)を作成しなければならない。
各実験計画書の審査においてACCは計画された研究が動物福祉法およびNIHのGuideに準拠し、大学のポリシーに一致しているかどうかを確かめなければならない。
次のような具体的な事項が求められる。
4)委員会での審査法 Full Committee Review
動物委員会の各委員には実験計画書の審査をする前に審査の対象となる実験計画書のリストが渡される。そして審査会直前に具体的に書かれた実験計画書のコピーが各委員に渡される。
次に含まれる実験計画書は委員会にて審査を受けるが、それ以外は委員会にて審査されるわけではない。
このような実験計画書はACCの会議が開催中に審査される。ACCの会議が成立するためには議決に要する定数の委員の出席が必要である。実験計画書の承認のためにはその定数の過半数の賛同が必要である。過半数の賛同がなければ、実験計画書を 修正するように研究代表者に返却されるかリジェクトされる。
ACCのメンバーが実験計画に関係している場合には実験計画書の審査、承認のためにその会議に出席しなくてもよい。ただし、ACCの要請により情報を与えることはできる。