東北動物実験研究会発会の趣意ならびに入会のご案内

 学会や研究会が乱設され、その会費の負担のみならず、これに関わる時間的負担も研究者や技術者に重くのしかかっている折、 何故東北動物実験研究会の発会の必要があるかという疑問を持たれると思います。そこで、釈迦に説法になるとは思いますが少々お耳を拝借させていただいて、 実験動物学の過去から現在までを整理し、動物実験に関る研究者や施設職員の勉強の必要性と、本会発会の趣意についてご説明し、ご参会のお願いを申し上げます。

 かって、安東洪次先生や田嶋嘉夫先生、石田名香雄先生を始め多くの先輩や先生方の大変な努力により、当時世界の流れであった 清潔な動物飼育施設の設置や整備が行われ、また装置の改善開発なども押し進められてきました。同時に、病原微生物の定着していないSPF動物や、微生物学的 に椅麗な動物、系統動物や疾患モデル動物などの開発生産・供給体制も整備されてきました。さらに、先輩諸氏は経営者教育や行政担当者への啓蒙、研究者の 認識向上や生産業者の育成、流通機構の整備等々にも力を注がれました。末端の研究者レベルまでもそれらの恩恵を受けられるようになり、今や実験動物学から 受ける恩恵は空気や水のように、あまり意識されなくなりました。この様に、動物実験を行う上で特に不自由はなく、またトランスジェニック動物の流行の 波も過ぎようとしています。実験動物学そのものにも特に画期的な次の目標はでてきそうにないことなどから、本当に実験動物学は必要なのかといった発言 も飛び出す状況になって参りました。

 しかし、私はそうは思っていません。実験動物学本来の姿である「各専門分野の研究者に立派な研究をしていただくため」に、 各専門分野の学問、技術などの情報を集積統合しそれらの活用を図る必要があります。そこに実験動物学の新たな構築と発展があると思います。動物実験を伴う 各専門分野の研究の進展のために実験動物学的な技術や情報を提供することにより、医学や生命科学の研究支援をすることが求められていおります。つまり、 実験動物学は学問や研究の連鎖循環の大切な一ステージを担っているといえましょう。

 もう一つの問題は、どの様な研究をするのが実験動物学なのかという素朴な疑問であります。これに対しては、私は実験動物学は 生理学、遺伝学、建築学等々どんな専門分野の研究をしても良いと考えています。極端な例ではソユーズの機体の研究でも良いと考えています。しかし、その研究 を計画するにあたり、また実験中に、あるいは実験が終わって整理する段階で、今一度実験動物学の中にそれを引き込んで考えてみる、つまり、その研究結果が動物実験 に役立つのか?、どの様にしたら動物実験の役に立つのか?、あるいは役立たせられるのか、を必ず考えてみることが大切です。この様に考えて参りますと、動物実験施設 やその職員はまず各専門分野の研究者に充分活用していただいて、立派な研究をしていただかなければその存在価値はないでしょう。

 このことから、我々実験動物関係者がどの様なお手伝いをすれば、各専門分野の研究者の皆様に立派な研究成果を上げていただけるか、 また一方で我々実験動物関係者の持っている技術、研究成果、動物、アイディアなどを活用していただくことにより、専門分野の研究者の夢が効率よくかなえられない ものか、と種々模索して参りました。

 そこで、多くの研究者のおられる施設等において、本会を持ち回りで開催し、経費をかけずにより多くの研究者の方々と実験動物関係者 が気軽に話し合える場を作り、研究のお役に立つことが出来ればと思います。そのことがひいては実験動物関係者の夢までもかなえさせていただけるであろうというのが 本会発会の趣旨であります。

 職務多忙のおり、大変恐縮に存じますが、どうかこの趣旨にご賛同下さり、ご入会下さいまして、東北地域の研究成果向上のためにご尽力 ご指導下さいますようお願い申し上げます。

 本会は1992年4月に東北大学医学部良陵会館で東北地区動物実験施設懇談会として第一回の会を持ち、1992年11月郡山市の奥羽大学歯学部 で行われた第二回会合の折に東北動物実験研究会と名称を変更いたしました。そして、第三回は1993年7月10日、盛岡市の岩手県民会館で約50人の参加のもとに開催されました。 第四回は弘前大学医学部で開催されることが決定致しております。

 1993年7月20日

東北動物実験研究会会長
信永利馬