施設の任務と「とく・とく」利用法

信永利馬       
東北大学医学部附属動物実験施設


 最初に本年6月2〜4日の第40国日本実験動物学会総会及び10月9日の第13回日本比較臨床血液学会大会を仙台で開催するに当りましては東北地方の研究者、技術者、関係業界の方々の心からの御協力により無事盛会裡に終わりましたことを感謝申し上げるとともに厚くお礼申し上げます。

 さて、本日のテーマを何にしたら良いか、さんざん迷いましたが、結局、本会を組織した主旨を十分理解して頂き、施設を十分活用して頂き、各専門分野の先生方の研究に少しでも役に立てば幸いに思います。

 先ず、実験動物学についての私見を述べておきたいと思います。

 安東洪次先生や田嶋嘉雄先生、石田名香雄先生を始め多くの先輩の先生方の大変な努力により、世界の流れであった清潔な飼育施設の設置、整備や装置の改善開発など推し進められてきまし た。

同時に感染性の強い病原微生物の定着していないSPF動物や微生物学的に綺麗な動物、系統動物や疾患モデル動物などの開発生産・供給体制も整備されてきました。

更に、先輩諸氏は経営者教育や役人への啓蒙、研究者の認識向上や生産業者の育成、流通機構の整備等々にも力を注がれ、未端研究者レベルにまでそれらの恩恵を受けられるようになり、今や実験動物学から受ける恩恵は空気や水のようにあまり意識されなくなりました。

この様に、動物実験を行う上で特に不自由はなく、またトランスジェニック動物の流行の波も一見過ぎようとしていて、実験動物学そのものにも特に画期的な次の目標はでてきそうにないなどのことから、本当に実験動物学は今後も必要なのかといった発言も飛び出す状況になって参りました。

しかし、実験動物学本来の姿である「各専門分野の研究者に立派な研究をして頂くために、各専門分野の学問、技術等の情報を集積活用し、あるいは独自の発想、研究により新たな展開をはかり、それらをうまく消化吸収させて実験動物学の新たな構築、発展を促し、動物実験を伴う各専門分野の研究の進展のために実験動物学的、技術的情報や技術、アディアなどにより協力すること」の必要性は今後無限に拡大されていくだろうと思います。

つまり、実験動物学は学問や研究の連鎖循環の大切な一ステージを担っていると言えましょう。

 もう一つの問題は、どの様な研究をするのが実験動物学なのかと言う素朴な疑問であります。

これに対しては、私は実験動物学は生理学、遺伝学、建築学等々どんな専門分野の研究をしても良い、極端な例ではソユーズの機体の研究でも良いと思います。

しかし、必ずその研究を計画するに当たり、また実験中にあるいは実験が終って整理する段階で、今一度実験動物学の中にそれを引き込んで考えてみる、つまり、その研究結果が動物実験に役立つのか?、どのようにしたら動物実験の役に立つのか?、或は役立たせられるのかを考えて見ることであろうと思いまいす。

例えば、ソユーズの中で動物実験を行うための機体構造、加速、減速法、動物から出るフケや排泄物の処理法など宇宙時代のためには必要であろう。

もしそれを考えなければ、単なる生理学者であり建築学者でしかないと思います。

この様に考えて参りますと、動物実験施設やその職員は先ず各専門分野の研究者に十分活用して頂いて、立派な研究をして頂かなければその存在価値は無いでしょう。

逆にそのためには職員自らが勉強し、経験を重ね技術を磨くと同時に適正な施設、設備の提供とその適正な運営、適正な動物、適正な飼育や動物実験や技術、適正な情報などの提供をし、それに加えて施設職員の研究成果や経験、知識、それに基づくアイディアの提供や適正な実験動物学教育・指導をすることこそが職務であり、施般の任務でもあると思っています。

もちろん一人の施設の研究者が専門分野の研究者であり、実験動物学の研究者、技術者でもあることはしばしば見られる光景であり、特に私の実験動物学や理念に矛盾するものではありません。

 そこで各専門分野の研究者に立派な研究をして頂くためには逆に各専門分野の研究者とは何をどの様にすれば良いのかと云う事になります。

もっとも大切なことは実験動物学の専門家と云うのか、動物実験施設関係者と云っておいた方がよいのかも知れませんがそうした人々との接触の機会を多くし、施設の動物実験施設関係者が何を考え、何をしており、どの様な技術を持っているかと云う事を知り、それが各専門分野の研究者の研究の中に役立てることが出来ないかを考えて頂く。

また、逆に各々の専門分野の研究者は自身の考えておられる事柄、行っておられる研究やその問題点ないしは要望、場合によっては困っておられる問題点などを話して頂くことであります。

案外動物実験施設の職員など関係者から見ればそれほど難題ではない場合が多いように思えます。

もちろん施設職員の研究意識や研究者や技術者としてのセンスとモラルの良し悪しの問題もあってすんなりとは信頼していただけない場合もあろうかと思いますが,動物実験施設職員のやることだからと云って一笑に伏すこと無く上手に利用して下さればそれなりの使い価値はあると信じています。

もちろん大変うまく協調して成果を上げておられる職場も多いと思いますが、ますますそうした輪を拡げて行くことが今日のような科学の進歩か著しく、研究者間の競争の激しいような時代に名人技術とアイディアを掘り出すことが専門分野では大切だと思います。

こうした専門分野の研究者や技術者と実験動物関係者(動物の生産販売、器具機械の生産販売業者等を含む)との交流のチャンスを作ると云うのが本会の結成の趣意であります。

したがって、開発された新しい仕事や動物の話を聞くことは結構ですか一方では学内の施設の者や研究者の方々にお話を頂くことも大切なことであろうと思います。
弘前では今回が最初ですから、私がお引受けした次第ですが、次回からは本会の主旨にしたがって計画されることを望みます。

 尚、付け加えることをお許し頂きたいのは、専門分野の研究者は「このことは他にない最も新しい仕事や動物であるとか、この様な面白い点がある」等と云う事を、具体的にお示ししないと本 気になって手を出して下さらないので、実験動物施設関係者は本気になって頂ける点まで、仕事を進めておかなければ誰も相手にして下さらない。

このことは我々にとっては辛いことでありますが、その辛抱が出来なければなりませんし、相手にしてもらえるまで仕事を進める能力が我々には必要でありましょう。

 以上の事柄を出来るだけ私の経験を例に上げてお話ししたいと思います。


第4回東北動物実験研究会(平成5年11月17日 弘前大学医学部)
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