ラットの視覚系について

清澤岩水       
キッセイ薬品工業株式会社


 実験動物の視覚については.ヒトのように自覚的検査ができない事,特にげっ歯類など小型実験動物では視覚器が小さいことなどから,検査に大変な労力と工夫が必要であります.各種試験て繁用されるラットての種々の視覚検査法を検討しながら,行動学的および電気生理学的な機能検査と肉眼的および病理組織学的な形態検査による検査系を中心にして,ラットの視覚系における系統や性による差.さらに 加齢に伴う変化についての総合的かつ詳細な検討をしました.
1.ラットの視覚系における系統による差を総合的に検討した.
 Wistar系,SD系,Fischer系,WBN/Kob系,Long一Evans系の5系統ラットを用いて検討した結果,行動学的検査での歩行移動量.電気生理学的検査での視覚誘発電位におけるNl頂点潜時,肉眼的検査での眼底所見および組織学的検査での網膜各層の厚さに有意な差が確認された.そして,日本て使用頻度の高いWistar系,SD系およびFischer系ラットては,Wiistaf系ラットが行動学的検査での歩行移動量に均一な反応がみられ,視覚系の検査に適した系統であることが明らかになった.
2.ラットの視覚系における雌雄による差を総合的に検討した.
 雌雄のWistar系ラットを用いて検討した結果,雌に比べて雄の網膜全層・各層厚が厚い傾向がみられ,行動学的検査では雄に比べて雌の歩行移動量が多く,性周期のstageによる差も認められた.この結果から,ラットにおける視覚系検査の加齢性変化を検討するには性周期による変動のない雄を用いて実施する方が評価しやすく,雄の成績によって雌での視覚系の加齢性変化についてもある程度推測できるものと考えられた.
3.ラットの視覚系における加齢に伴う変化を総合的に検討した.
 若齢より老齢期(24カ月齢)までのWistar系雄ラットを用いて検討した結果,電 気生理学的検査での網膜電図のa波b波・律動様小波の振幅と視覚誘発電位の振幅の減弱が13〜17週齢頃より始まり,網膜電図のa波b波と視覚誘発電位の潜時の延長が80週齢頃より認められた.肉眼的検査での眼底所見で網膜動静脈の狭細化が老齢期にみられた.組織学的検査では,網膜全層や杵状体錘状体層の厚さは9〜13週齢にかけて急激に菲薄化し,漸次菲薄化の後,67〜80週齢頃から再び著しい菲薄化がみられ,水晶体は45〜54週齢頃から水晶体線維細胞の腫大と空胞化がみられた.行動学的検査では変化は検出されなかった.
ラットの視覚系は13週齢頃に成長が終了するものと考えられた.以降加齢に伴った視覚機能の減弱と反応の遅延が,形態学的には,網膜の菲薄化と水晶体線維細胞の腫大・空胞化が認められていくラット視覚系の加齢性変化が明らかになった.

本講演に関しては日本実験動物技術者協会東北支部会報 No. 28 1996に総説として詳細に掲載されている.
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