投与・採血の手引き

2000年2月にEFPIA(欧州連邦製薬工業協会)、 ECVAM(欧州代替法バリデーションセンター)の主導により作成され、2002年7月に中井伸子氏により翻訳された「実験動物の被験物質の投与(投与経路、投与容量)及び採血に関する手引き」を以下に掲載します(旧ウェブサイトより移植)。
発表から20年以上が経過していることから、本記事を参照または引用する際には、最新の文献に基づく知見を併用することを推奨します。

翻訳元論文
Diehl, K.-H., Hull, R., Morton, D., Pfister, R., Rabemampianina, Y., Smith, D., Vidal, J.-M. and Vorstenbosch, C.V.D. (2001), A good practice guide to the administration of substances and removal of blood, including routes and volumes. J. Appl. Toxicol., 21: 15-23. https://doi.org/10.1002/jat.727 

実験動物の被験物質の投与(投与経路、投与容量)及び採血に関する手引き

EFPIA(欧州連邦製薬工業協会)、 ECVAM(欧州代替法バリデーションセンター)
2000年2月作成

序文

 本書はEFPIA(欧州連邦製薬工業協会)とECVAM(欧州代替法バリデーションセンター)の主導により作成されたものである。本書は、最新設備を備えた安全性評価研究室において研究者が研究計画を立てる際の一助としてデータを使いやすくするだけでなく、実験動物の愛護にも最大限配慮することを目的として作られている。
 本書はヨーロッパの製薬業界で働く研究者を対象として作られているが,一連のデータセット及び改良案の基礎となる原則は、研究所や大学、さらには異業種を問わず、動物に対して投与・採血等の技術を用いる全ての人にも同じように利用できるものと考えられる。
 被験物質の投与や血液検体の採取を扱った文献は非常に多くあり、また、多くの研究所には長年の習慣や経験に基づいて作成された独自の「内部」指針も存在する。European Union Directive 86/609EEC (EU,1986) の規定により、我々は苦痛を最低限に抑えるための実験法を改良する義務を負った。試験計画を立てたり,レビューする際に有益な予備知識がこの手引き書から得られることを期待している。
 本書は可能な限り学術雑誌に掲載された文献に基づいているが、これが不可能な場合には、内部データ及びワーキンググループ(作業部会)での経験(並びに医薬品業界より提出された有用なコメント)を活用して最終意見としている。本書ではまた、被験物質の投与,採血に関連する技術をさらに改良するという継続的な要求も扱っており、それらを行う方法も提案する。動物実験の重複を避けるため、研究所間で積極的にデータを共有すべきであり、同時に、動物愛護に関する経験的な技術及び過量投与等に起因する科学的な問題も共有すべきである。本書に記載する推奨事項は、「正常」動物に関するものであり、例えば、妊娠期や授乳期の動物については特別の配慮が必要である。投与容量を多量にした場合や過剰量の採血を行った場合、特に麻酔薬を投与した場合には、試験結果の解釈に混乱を来すおそれがあると考えられる。

1. 被験物質投与に関する手引き

(1) 緒言

 実験動物への投与は種々の科学的な研究に必要不可欠であり、規制当局の要求に合致させるためにも不可欠である。特に製薬企業では動物愛護と正当な科学研究を両立できる投与方法の基準が検討されてきた(Hull 1995)。
 新薬の前臨床段階における安全性評価では、その医薬品に要求される安全域を確立するため、複数の「有効量」を投与することが一般的である。毒性が低い化学薬品や、通常の処方ではほとんど溶解しない化学薬品について、学術上の要求と規制上の要求の両方を満たすためには、個々の動物に対する投与容量を多量にしなければならないこともある。臨床使用目的もまた一般的な投与容量を上回ることを容認する要因となる。静脈内への適用を目的とした造影剤や血漿増量剤がその例である。
 本ワーキンググループの目的は以下の通りである。
(ⅰ) 規制当局より求められる毒性試験で用いる通常の実験動物種に対する投与容量について、その指針を提供すること。
(ⅱ) 動物愛護と実用性の観点から最良の実施方法であることを説明できるような定型試験における投与量水準について、統一見解を提供すること。
(ⅲ) 一般的な試験において上限を提示できる投与量水準の指針を作成すること。なお、この指針は特殊な研究の場合にはあてはまらない。

(2) 投与容量

 最も頻用されている動物種に一般的に用いられている投与経路で投与する際の投与容量を表1に示す。これらの投与容量は、公表文献及び内部指針に基づくコンセンサスの得られた値である。なお、マーモセットとミニブタも、ヨーロッパでは使用が増えていることから、現在では頻用動物種の範疇に含まれると考えられる。
 表中の各欄には2つの数値が記載されている。各欄の左側の数値は、単回もしくは反復投与時の最適投与容量の基準を示したものである。括弧で括った2番目の数値(記載箇所のみ)は、投与可能な最大容量を示している。もし、この容量を超える場合には動物愛護の問題や科学的問題が密接に関係してくるため、信頼できる獣医外科学専門医に照会するべきである。なお、場合により、表中の数値の中には、薬局方の要件を配慮した数値もある。

表1 推奨投与容量(許容最大投与容量を含む)

投与経路と投与容量(mL/kg, *はmL/投与部位)
動物種 経口 皮下 腹腔内 筋肉内 静脈内 (急速) 静脈内 (低速)
マウス 10 (50) 10 (40) 20 (80) 0.05* (0.1)* 5 (25)
ラット 10 (40) 5 (10) 10 (20) 0.1* (0.2)* 5 (20)
ウサギ 10 (15) 1 (2) 5 (20) 0.25 (0.5) 2 (10)
イヌ 5 (15) 1 (2) 1 (20) 0.25 (0.5) 2.5 (5)
サル 5 (15) 2 (5) - (10) 0.25 (0.5) 2 (-)
マーモセット 10 (15) 2 (5) - (20) 0.25 (0.5) 2.5 (10)
ミニブタ 5 (15) 1 (2) 1 (20) 0.25 (0.5) 2.5 (5)
表に関連する脚注:
(-):利用できるデータなし
非水性注射物については吸収時間を考慮の上、再投与すること
筋肉内投与の投与部位は1日あたり2箇所を超えないこととする
皮下投与の投与部位は1日あたり2~3箇所までとする
皮下投与の投与部位についてはFreundのアジュバンドの投与は含まない

 上記に示した最大投与容量の幾つかは最近の文献(Flecknell 1996, Wolfensohn&Lloyd 1994)から引用した値であるが、「最適の」投与容量と比べると高くなっている。特に反復投与を実施する際には、動物愛護に対して注意が必要であり、投与容量が多くなる被験物質の処方にも注意が必要である。投与容量を多くすると、それに対する生理反応が生じるため、試験期間は制限され、科学的妥当性も揺らぎかねない。従って、試験実施計画書の最終版を作成し、それらに基づいて試験を開始する際には、それに先だって、例えば査察機関や倫理審査委員会が倫理的な見地に立ってこれらの事項を熟慮することが必要不可欠といえる。また、科学的な理由のみならず倫理的な理由からも、新処方(新製剤)の大規模試験を行う際には、その前に、物理化学的配合変化に関する試験(in vitro試験)と小規模な予備試験(少数の動物群を用いた試験)を実施することを強く勧める。投与容量は最低限、投与物質の処方及び投与の正確度に見合ったものでなければならない。

(3) 投与経路

経口投与

 時として、投与前に実験動物の摂餌を制限する必要がある。このような要因は吸収に影響を及ぼす可能性がある。投与容量が多い(40mL/kg)と胃に過剰な負荷がかかり、急速に小腸に移行することが確認されている(Hejgaard et al 1999)。絶食期間は、動物種の摂餌のパターン、摂餌制限を始める時点、動物種の生理機能、投与所要時間、摂餌と照明のサイクルによって異なる(Vermeulen et al 1997)。正確な投与を行うため、また投与中の事故を避けるため、投与液は経口ゾンデを用いて投与することを勧める。

非経口投与

 薬物を非経口投与する際に考慮すべき要因は、投与容量、投与前後の処方の安定性、pH、粘度、浸透圧、緩衝能、処方の無菌性や生体適合性といえる。これらの要因は反復投与試験では特に重要となる。これらの要因についてはClaassen(1994)による一部の詳報に概説されている。投与容量、注射液の粘度、注射速度、及び動物種を考慮して、最も小さいサイズの注射針を使用すべきである。

a. 皮下投与
 この投与経路は頻用されている経路である。この投与経路による吸収の速度及び程度は処方(製剤組成)によって異なる。

b. 腹腔内投与
 この投与経路は反復投与試験ではほとんど使用されない。その理由は、合併症を生じるおそれがあるためである。さらに、腸管内に注射する危険性や、刺激性物質の場合には腹膜炎を引き起こすおそれもある。薬物を懸濁液として腹腔内投与した場合、腹腔からの薬物吸収は当該薬物粒子の特性と溶媒の性質に左右され、薬物は体循環内と門脈循環内に吸収されるものと思われる。

c. 筋肉内投与
 筋肉内注射を行うと、注入物質による筋線維への圧迫が避られないため、痛みを伴うことがある。投与部位は、神経損傷を最小限に抑えるように選択しなければならない。また、反復投与試験では投与部位を順番に変える必要がある。親水性の処方(製剤組成)と疎水性の処方(製剤組成)とを区別する必要もある(吸収速度に差があり、疎水性のものでは24時間以上にもわたって貯溜する傾向がある)。さらに、反復投与試験では、炎症の発現やその後遺症を考慮する必要もある。

d. 静脈内投与
 この投与経路については、急速静注、低速静注、静脈内持続注入に分類される。表1に示した値は、急速静注と低速静注に関するものである。
(ⅰ) 急速静注:静脈内投与経路を用いるほとんどの試験では、被験物質はおよそ1分程の短い時間で投与される。このように比較的急速な注入を行う場合、被験物質は血液と適合するものであって、粘性があまり高くないものでなければならない。投与容量を多量にしなければならない場合は、注射液を体温まで温めておくべきである。静脈内投与を行う場合、注入速度は重要な要素であり、ゲッ歯類についていえば、注入速度は3 ml/minを超えてはならないことが示唆される。イヌに生理食塩液6mL/kgを急速静注しても、ヘマトクリット値や心拍数に変化は観察されなかったが、20mL/kg投与時には15%の血液希釈と一過性の頻脈(1分間以上にわたり46%増加)が発現した(Zeoli et al 1998)。
(ⅱ) 低速静注:被験物質に期待される臨床適応(症)に応じて、あるいは、溶解性・刺激性といった制限因子が存在するため、低速静注による被験物質の投与を考慮しなければならない場合がある。特徴的なことに、低速静注の際には、被験物質を血管外に投与する恐れを最小限にするため、各種の手法が用いられる。5~10分間かけて低速静注する際には、標準注射針もしくは翼付き針を使用することもある。また、静注用カニューレを皮静脈にテープで固定するか(短時間の場合)、外科的に留置してから使用する(長時間もしくは反復持続注入の場合)のも良いだろう。
 ラットに等張生理食塩液を1mL/minの流速で最大80mL/kgまで、4日間連日静脈内投与しても、苦痛の顕著な兆候も、肺の病変もみられないことが明らかにされている(Morton et al 1997a)。しかし、投与期間を30日に延長し、注入速度を0.25、0.5、1.0mL/minとした場合には、肺病変の発現率が増加し、重症度も悪化した(Morton et al 1997b)。早期の時点ですでに好ましくない影響(有害作用)が生じていたのではないかと思われるが、時間が短かったために病変・病状等を発現するまでには至らなかったのかもしれない。
(ⅲ) 持続注入:溶解度や、臨床適応(症)など低速静注と同様の理由で持続注入を考慮することが必要な時がある。しかし、持続注入を長期にわたって行う場合には特に注意が必要である。投与容量及び投与速度は、投与する被験物質及び輸液療法の実施を考慮して決定する。基準としては、単回投与の場合は循環血液量の10%未満の容量を2時間以上かけて投与する。循環血液量については本書の表3にまとめて示した。動物の拘束を最小限にして、ストレスを極力かけないことが長期間の持続注入試験を考える際の重要な要素となってくる。

 一回の注入を行う時間も要素の一つである。表2に不連続な注入を行う場合(1日4時間)と連続注入を行う場合(24時間)の注入速度と投与容量の推奨値を示した(この表を完成するためにはもう少しデータが必要である)。
 ウサギへの投与容量と投与速度は胎児発生毒性試験(催奇形性試験)データに基づく値であり、これらの試験では、母動物に2mL/kg/h以上の速度で投与すると、胎児には影響はないものの、母動物に血管周囲顆粒球浸潤(perivascular granular leukocyte cuffing)や増殖性心内膜炎が生じることが明らかにされている(McKeon et al 1998)。ラットへの注入速度は一般的に1~4mL/kg/hの範囲である(Cave et al 1995; Barrow&Heritier 1995; Loget et al 1997)が、催奇形性試験を行う際には2mL/kg/hを超えてはならない。マウス(van Wijik 1997)、イヌ及びサル(Perkin & Stejskal 1994)、及びミニブタ(未公表データ)の値は1ヵ月反復投与試験の成績に基づいている。
 投与容量が多い場合の溶媒の重要性等、その他の制限事項については4つの文献(Cornelius et al 1978; Concannon et al 1992; Manenti et al 1992; Mann&Kinter 1993)で詳しく取り上げられている。これらのデータでは、静脈内に注入する許容最大液量は、使用する溶媒により大きく異なることが示されている。

e. 皮内投与
 この部位は一般的に、免疫、炎症、感作反応の評価に用いられる(Leenaars 1997; Leenaars et al 1998)。投与物質はアジュバントとともに処方されることもある。皮膚の厚みに応じて、0.05~0.1 mlの投与容量を投与することができる。

表2 反復静脈内持続注入-投与容量/投与速度(許容最大投与量/投与速度を含む)

一日の投与時間 マウス ラット ウサギ* イヌ サル ミニブタ
一日の総投与液量(mL/kg)
4時間 - 20 - 20 - -
24時間 96(192) 60(96) 24(72) 24(96) 60 24
速度(mL/kg/h)
4時間 - 5 - 5 - -
24時間 4(8) 2.5(4) 1(3) 1(4) 2.5 1
(-):データなし
* :胎児発生毒性試験(催奇形性試験)データに基づく
非水性注射物に関しては本文を参照

(4) 投与に用いる溶媒

 動物を用いるいずれの試験においても、溶媒の選択は重要な問題である。溶媒は被験物質の暴露を最適化するものでなければならないが、研究対象である被験物質の試験結果に影響を与えるものであってはならない。つまり溶媒としての理想は生物学的に不活性であり、被験物質の生物物理学的特性に影響を与えず、動物に全く毒性を示さないものである。もし溶媒の成分が生物学的作用を示すのであれば、投与量を制限して、そのような作用を最小化するか、もしくは無くさなければならない。被験物質の投与に使われる単純な溶媒には等張性水溶液、緩衝液、共溶媒系、懸濁液、油などがある。非水性注射物については、再投与する前に、吸収時間を検討する必要がある。懸濁液を投与する際には投与液の粘度、pH、及び浸透圧を考慮に入れなければならない。共溶媒系を用いる時には溶媒自体も用量制限毒性(dose limiting toxicy)を示すということに注意しなければならない。多くの研究施設では実施される動物実験結果と研究対象物質の特性をもとに、最適な溶媒を容易に選択できる方法の開発が盛んに行われている。


2. 採血に関する手引き

(1) 緒言

 採血は実験動物に対して行う最も通常の処置の一つである。実験用の哺乳類、鳥類からの採血法はBVA/FRAME/RSPCA/UFAW Joint Working Group on Refinementによる最初のレポート(1993)に概説されている。本書は、研究者に使いやすい形で、入手可能な最新情報に基づいた許容採血量に関する基準を提示するとともに、トキシコキネティックス試験(薬物動態試験)及び毒性試験の必要性を述べることも目的としている。各種のげっ歯類からの採血方法として、眼窩静脈叢から採血する方法が未だに一般的に使われているが、この方法による後遺症のことを考えてより好ましい代替法を提案する。

(2) 循環血液量

 許容採血量(採血量限界)の計算は循環血液量に関するデータが正確かどうかにかかっている。文献を再検討したところ、これらの値にはかなりのばらつきがみられた。これはおそらく使用された手法や、動物の系統、性別などが関係しているものと思われる。最も頻用される測定方法としては、放射標識赤血球法(Smith 1970;Sluiter et al 1984;Fujii et al 1993)、放射標識トランスフェリン(Argent et al 1994)、放射標識血清アルブミン法(Callaham et al 1995; Carvalho 1989; Gillen et al 1994)、標識色素法(Schad et al 1987)、酵素希釈法(Holmes & Weiskopf 1987; Visser et al 1982)、Fibre Optics(Kisch et al 1995)、デキストラン-70(Van Kreel et al 1998)などがある。
 安全性評価試験で一般的に使用されている動物種の循環血液量を表3に示す。同表には毒性試験で近年使用頻度が増加しているマーモセットとミニブタのデータも記載している。表示した値は、動物は正常な成熟動物であり、栄養水準も適切であることを前提として、様々な情報源から引用したものである(Altman & Dittmer 1974; Swenson 1977; Jain 1986; McGuill & Rowan 1989; First report of the BVA/FRAME/RSPCA/UFAW 1993)。

表3 実験動物の循環血液量

血液量(mL/kg)
一日の総投与液量(mL/kg) 推奨平均値* 平均値の範囲
マウス 72 63-80
ラット 64 58-70
ウサギ 56 44-70
イヌ(ビーグル) 85 79-90
アカゲザル 56 44-67
カニクイザル 65 55-75
マーモセット 70 -82
ミニブタ 65 61-68
*:推奨平均値は平均値の範囲の中央値

(3) 採血量

 本書に記載の採血量に関する推奨事項は、公表文献をはじめ、ある特定の問題を本ワーキンググループ(working party:作業部会)に知らせるために実施された最近の研究(現在投稿中の研究)や、「内部」標準操作手順書から得られた情報に基づいている。
 採血が限界に近づくにつれて、動物愛護の問題が最も重要となるが、動物の生理反応のもつ科学的な影響も、データの解釈や妥当性に影響を与えることから、考慮しなければならない。動物の一般症状を評価した際に疑わしいと思われる場合には、採血を行う前に責任者もしくは獣医学専門担当者に問い合わせることが望ましい。
 Scipioniら(1997)の研究で、ラットの総血液量の最高40%を24時間かけて採取し、その2週間後に同様の採血を繰り返しても、肉眼的に明らかな病的所見は認められないことが確認された。全般的にみて、採血後の動物の状態にとって最も重要な問題、例えば、心拍数、呼吸パターン、各種ホルモン濃度などを調べたデータはほとんどなく、運動やその所要時間など挙動面に関するデータもほとんどない。これらはすべて、過剰な採血を行うと、それに呼応して変化する可能性があるが、そのような変化を検討するにはかなりの努力と財源が必要になるものと思われる。とはいえ、血液学的検査パラメータであれば、容易に測定することができ、小規模なプロジェクト(Nahasらが提案)において各種血液量採取後の赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(HGB)、ヘマトクリット(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、及び赤血球分布幅(RDW)が測定された。具体的には、動態試験を模倣するため、Sprague Dawley系雌雄ラット(体重約250 g)より循環血液量の7.5%、10%、15%、及び20%容量を24時間かけて採取し、その後最長29日間、これらのラットの追跡調査(事後観察)が行われた。
 その結果、上記パラメータのいずれをみても、採血前の値(ベースライン値)に回復するのに要する期間にはかなりのばらつきがあること(及び、循環血液量の15%及び20%容量採血群では採血後29日が経過しても一部のパラメータ(MCV、RDW)は採血前の値に回復しないこと)が明らかとなった。従って、反復採血(multiple sampling:複数回採血)時に設ける回復期間は、ある「容量」採血群のすべてのラットが正常(すなわち、各動物毎にみた採血開始時の値±10%)に回復するのに要する期間とすることを本書では推奨する。通常の毒性試験で必要とされているように循環血液量の15%を超える血液量を1回に採取すると、非常に緩徐に採血を行わなければ、循環血液量減少性ショックを発現するおそれがあるため、そのような採血は奨められない。少量の採血を反復する場合には、上記のような急性作用は生じないものと思われる。
 下記に採血許容量限界及び適切な回復期間についての指針を示すが、これらの指針は反復採血によるストレスはもとより、それ以外の操作手順によるストレスも考慮に入れて、動物に与える全般的な苦痛・過酷さを評価したものである。下表で、単回採血法及び反復採血法について取り上げる。なお、毒性試験では血液学的検査パラメータを批判的な目で評価しなければならないため、そのような毒性試験に用いる動物については、回復期間をさらに延長することを提案する。

表4 採血許容量限界と回復期間

 単回採血(毒性試験等) 反復採血(トキシコキネティクス試験等)
採血量の循環血液量に対する割合(%) およその回復期間 24時間で採血する量の循環血液量に対する割合(%) およその回復期間
7.5% 1 week 7.5% 1 week
10% 2 weeks 10-15% 2 weeks
15% 4 weeks 20% 3 weeks

 トキシコキネティクス試験及び薬物動態試験では通常、少量の採血を反復しなければならず、採血量が多くなる(循環血液量の20%)が、このように大量の血液を採取すると、血行動態に重大な影響が生じ、半減期の算出にも大きく影響することを忘れてはならない。
 消失半減期は、動物を致死せしめる前24時間以内に最終の血液検体を採取すれば、算定できるものと思われる。上記表中の数値には、動物を最終的に麻酔で安楽死させる際に採取可能な最終の血液検体は含まれていない。提案の採血量についてはそのような介入処置を行うべきではないとしていることから、血液の補充(blood replacement)は考慮していない。
 表4の値を用い、動物の正常な生理に著明な障害を与えない採血許容量の基準値(reference guide)を表5に示す。

表5 各種動物種の総血液量及び推奨最大採血量(表示体重を基準とする)

動物種(体重) 血液量 (ml) 7.5% (ml) 10% (ml) 15% (ml) 20% (ml)
マウス(25g) 1.8 0.1 0.2 0.3 0.4
ラット(250g) 16 1.2 1.6 2.4 3.2
ウサギ(4kg) 224 17 22 34 45
イヌ(10kg) 850 64 85 127 170
アカゲザル(5kg) 280 21 28 42 56
カニクイザル(5kg) 325 24 32 49 65
マーモセット(350g) 25 2.0 2.5 3.5 5
ミニブタ(15g) 975 73 98 146 195

(4) 採血部位

 これまでに静脈穿刺部位及び静脈切開部位の検討が行われているのは主にげっ歯類とウサギである(First Report of the BVA/FRAME/RSPCA/UFAW 1993)。この情報について、採血方法の技術的進歩に重点をおいて概説するとともに、各動物種の採血部位の利点と欠点を表6に、推奨される反復採血部位を表7にそれぞれ示す。

表6 各種採血法の利点と欠点

採血経路/静脈 全身麻酔 組織損傷(1) 反復採血の可否 採血量 動物種
頸静脈 不要 軽度 +++ ラット、イヌ、ウサギ
橈側皮静脈 不要 軽度 +++ マカク属、イヌ
伏在静脈/外側足根静脈 不要 軽度 ++(+) マウス、ラット、マーモセット、マカク属、イヌ
耳介周囲静脈 不要(局所麻酔) 軽度 ++
+
ウサギ
ミニブタ
大腿静脈 不要 軽度 +++ マーモセット、マカク属
舌下静脈 必要 軽度 +++ ラット
外側尾静脈 不要 軽度 ++(+)
+
ラット
マウス、マーモセット
耳介中心動脈 不要(局所麻酔) 軽度 +++ ウサギ
前大静脈 不要 軽度 +++ ミニブタ
尾の先切断(1〜3 mm未満) 必要 中等度 制限あり + マウス、ラット
眼窩静脈叢 必要 中等度/高度 +++ マウス、ラット
心臓(2) 必要 中等度 不可 +++ マウス、ラット、ウサギ
(1) 組織損傷の可能性は、組織損傷の発現率並びに後遺症(炎症反応、組織学的損傷など)の重症度に基づいている。
(2) 全身麻酔下での屠殺処理としてのみ実施

表7 推奨される反復採血部位

動物種 推奨部位
マウス 伏在静脈、外側尾静脈
ラット 伏在静脈、外側尾静脈、舌下静脈
ウサギ 耳介周囲静脈、耳介中心動脈、頸静脈
イヌ 橈側皮静脈、頸静脈、伏在静脈
マカク属サル 橈側皮静脈、伏在静脈、大腿静脈
マーモセット 大腿静脈、伏在静脈
ミニブタ 前大静脈

 異なった部位から採血した検体では臨床病理学的検査値に差を生じることがあり、また、データベースと比較する場合もこの点に留意すべきである。
 伝統的な採血経路については、標準的文献に採血方法が記載されている。しかし、その他の採血方法については特筆すべき事項があるため、以下に概説した。

外側足根静脈(伏在静脈)

 この方法は、ラット、マウス、ハムスター、スナネズミ、モルモット、フェレット、ミンク(Hem et al 1998)から、これより大型の動物まで、多くの実験動物に適用されており、循環血量の5%まで採血が可能である。麻酔を行う必要がないため、薬物動態試験のように採血を繰り返し実施しなければならない試験に特に適している。伏在静脈は足根関節の外側にあり、剃毛後、アルコールでその部分を拭くだけで容易に見ることが出来る。動物をプラスチック製の筒のような適当な保定器の中に入れ、後ろ足を伸ばす。関節の上を軽く圧迫すると、静脈を浮き上がらせることができ、一番細い規格の針で静脈穿刺することにより溶血することなく十分速やかに血液を採取することが出来る(例えば、ラットやマウスには25G~27Gの針を使用する)。少量の採血を行う場合には、穿刺部位に単に針を突き刺すことによって血液の滴を形成し、その後、ヘマトクリット測定用微小管を用いて標準量を回収することもできる。採血後、採血部位を圧迫しておけば十分止血できる。また、痂皮を除去すれば、一連の採血が可能となる。
 持続性の(微量)出血以外には合併症は報告されていないようであり、また、この方法は麻酔を必要としないという点でも優れている。動物愛護に関わる問題を体重増加や日内リズム(日周リズム)、行動等の点から検討した試験は行われていないが、それでもこの採血経路は動物の健康状態に重大な影響を及ぼすものではないと思われる。

耳介周囲静脈/耳介中心動脈

 ウサギやモルモットでは耳介周囲静脈から採血する方法が一般に用いられている。この採血経路はミニブタに適用されることもあり、その際には静脈内カニューレを併用することが多い。動物を確実に保定することが不可欠であり、採血の20~30分前に局所麻酔用クリームを耳介の皮膚に塗布しておくと、針が皮膚を貫通する際に動物が頭を振るのを容易に防ぐことができる。また、耳介周囲静脈を被っている皮膚表面にワセリンを塗布した後に静脈穿刺して血液を採血用試験管に採取するという方法もある。大量の採血を行う場合、ウサギの耳介中心動脈より採血することもできるが、採血後は、出血の持続や血腫の形成を防ぐため、採血部位を2分間以上圧迫しておかなければならない。さらに、採血の5分後及び10分後に、出血が持続していないかどうか、動物をチェックする必要もある。耳介中心動脈にカニューレを留置すれば反復採血も可能になり、それによって、8時間に及ぶ薬物動態検討用血液検体の採取も容易に行うことができる。

舌下静脈

 この採血方法はラットなどのげっ歯類で容易に実施することができ、また、採血量の制限及び反復麻酔が不可欠であるという制限はあるものの、それ以外の点では大量(0.2~1 mlなど)の採血にも適している。改良法(Zeller ら、1998)により、過去に認められた欠点の一部は改善され、反復採血にも適用できるようになっている。この採血方法を具体的に述べると、ラットを麻酔し、採血補助者がラットを仰臥位(仰向け)に保定する。次いで、頸部の弛緩した皮膚をつまみ上げて、頭部から戻る静脈を部分的にうっ血させる。別の採血補助者が綿棒で舌を徐々に引き出し、親指と人差し指でしっかりつかむ。次いで、舌下静脈の一つ(正中線の両側に各1本ずつ走っている)を23~25Gの皮下注射針で穿刺する。その際には、可能な限り舌の先端に近い部位を穿刺する。採血用試験管に血液を滴下できるようにラットを逆さにし、必要量の採血が終了した後は、頸部の圧迫を緩め、ラットを仰臥位(仰向け)にする。舌をもう一度引き伸ばし、乾いた綿棒で止血する。なお、通常、止血薬は不要である。
 上記の方法で採血した場合、麻酔を施した未採血コントロールラットと比較して、採血したラットの摂餌・摂水量や体重増加に有意差は全く認められない。さらに、眼窩静脈叢からの採血に比較して、病的変化を認めることも少ないようである(Mahl et al投稿中)。しかし、この採血法は麻酔が必要であり、このことが依然制約になっているものと思われる。

外側尾静脈

 この採血経路は原理的には外側足根静脈と類似しているが、少量の血液しか採取できない傾向がある(マウスでは0.1~0.15 ml、温めたラットでは最高2 mlまで)。採血は、外側尾静脈より注射針の付いた注射筒を用いて行うか、同尾静脈を穿刺する。麻酔は不要であり、そのため、この採血経路は特に反復採血に適している。出血を促進させるためには血管を拡張させる必要があり、そのような場合には、動物を37℃の状態に5~8分間放置するか、あるいは尾を局部的に温めるとよい。動物の健康状態に影響を及ぼすような不都合なことはほとんど生じないようであるが、加温する場合には苦痛の徴候を示していないかどうか、動物を綿密にモニターしなければならない。

前大静脈

 ミニブタの場合、吊り網に入れて保定する方法や、あるいは仰向けにして前脚を尾の方向に引っ込めて保定する方法が用いられる。この他の方法として、畜産業で使用されている保定法(鼻先をくくりつける方法、両手両足を縛る方法、後ろ足で吊す方法)が用いられる場合もあるが、これらの方法は動物へのストレスが大きく、また、科学研究に悪影響を及ぼす可能性もあるため、実験動物には不適切である。迷走神経を傷つけないようにするため、頸部の右側から、胸骨柄側方、30~45°の角度で左肩に向かってまっすぐ採血針を挿入する。採血針が静脈に入ると、採血者は針先が急に動くような感覚をおぼえる。この感覚が得られれば、その後は血液を容易に採取することができる。この方法は連続静脈穿刺にも使用することができるが、採血針を抜いた箇所に血腫が形成される。そのため、この方法は、1週間に1回以上の頻度で採血針を抜く操作が必要な採血には適さない(Swindle, 1998)。

尾先端の切断

 この採血方法は、ラット及びマウスで頻繁に使用されており、採血量は0.1~0.2 mlである。切断は適切な場合、尾の先端から0.5~1 mmの部分に限定すべきであるが、経時的に最大5 mmまで切除可能であり、従って、凝血塊(血餅)を除去すれば、短期間の反復採血も可能である。但し、連続的に切断したために尾が著しく短くなる(すなわち、短縮部位が5 mmを超える)ようなことがあってはならない。この方法は成熟しすぎた動物には適さない場合もある。麻酔を施すことが推奨される。

心臓穿刺

 この方法は必ず全身麻酔下で行うべきである。過去においては、代替採血経路がないために小型のげっ歯類で使用され、回復をみている。しかし、現在では別の採血法が適用可能となっており、この方法は苦痛を伴う可能性があり、また、心膜出血や心臓タンポナーデなどの致死的後遺症を生じる可能性もあるため、動物を致死せしめる際の採血時(最終採血時)のみに使用すべきである。

眼窩静脈叢

 眼窩静脈叢を採血経路とする方法は過去に頻用されていたが、その一方で、有害な作用を引き起こすことが認められた。その結果、このような作用を引き起こし、それらが苦痛を伴う可能性があるという理由で、この方法は問題視されるようになっている。しかし、最近では、科学研究上の要件を満たし、動物愛護の面も向上させるという別の方法が開発されている。とはいえ、Technical Subgroupは、この新しい採血法を考慮に入れた上で、眼窩静脈叢からの採血の利点と欠点の一部を詳細に見直すことは価値があるとの考えを示した。
 眼窩静脈叢からの採血はいずれの動物種を用いる場合も必ず全身麻酔下で行う必要があり、一部の国では麻酔の実施が規則で定められている。この方法については数多くの研究者によって詳しく説明されている(Stone 1954; Waynforth & Flechnell 1992; Van Herck 1999)。
 この採血法の改良に関する公表文献はほとんどない。具体的には、組織損傷を最小限に押さえる最適な方法として、結膜を貫通する方法(ラットの眼の側方から、あるいはラットの眼の背側もしくは上部側を経由する方法)が論じられている(First Report of the BVA / FRAME / RSPCA / UFAW 1993)。同一部位での採血については、2週間の間隔をおけば、大抵の場合、損傷した組織は修復されるはずである(van Herck et al 1992)が、だからといって、完全に治癒する前の初期段階に動物が苦痛を感じていないとは言い切れず、従って、眼窩静脈叢からの反復採血を懸念する声がある。研究の中には、眼窩静脈叢からの反復採血は動物の日内リズムに影響を及ぼさず(Beynen et al 1988; van Herck et al 1997)、長期的にみた眼窩組織の組織病理学的検査所見にも影響を及ぼさない(Krinke et al 1988;van Herck et al 1992)ことを明らかにした研究もあれば(すなわち、両試験とも、組織損傷はすべて治癒することを示している)、その一方で、組織学的変化、一般症状の異常所見、及び苦痛の痕跡が認められ、そのために動物を安楽死せざるを得なくなり、データが得られなかったとする研究(McGee & Maronpot, 1979; Beynen et al 1988 ; Le Net et al 1994;van Herck et al 1998; van Herck et al(a) 投稿中; van Herck et al(b) 印刷中)もある。この他にも、下記に示すような重篤な有害作用(副作用)を生じる可能性がある。

(ⅰ) 眼球後出血により、血腫が形成され、過度の圧力が眼に加わって、動物にほぼ確実に苦痛を与える。
(ⅱ) 持続性出血を止めるために圧力を加えたり(例えば眼を押さえるなどして)、血腫の形成によって圧力が加わったりすると、角膜潰瘍、角膜炎、パンヌス形成、眼球破裂、微小眼炎(micro-ophthalmia)を生じることがある。
(ⅲ) 視神経をはじめとする眼窩内組織が障害されると、視力低下(視野欠損)を生じることがあり、失明の原因にもなる。
(ⅳ) マイクロピペットによる脆弱な眼窩内骨の骨折及び神経損傷、並びに硝子体液の消失を伴う眼球貫通。

 上記の望ましくない後遺症の多くは眼窩内の深部で起きており、見過ごされている可能性がある。望ましくない副作用の発生率は1~2%の間であると考えられる(Krinke et al 1988)が、採血者の技量によっては、たとえ経験を積んでいたとしても、さらに高率になる可能性もある(van Herck et al 1998のTable 1参照)。

(5) 針穿刺の頻度

 針穿刺の回数を最小限に押さえることは、優れた科学データを得るのと同様に重要である。同一の穿刺部位を使用すべきではない。すなわち、静脈に沿って部位を変えて穿刺すること。

(6) カニューレ挿入(cannulation)

 カニューレ挿入は反復採血を行う際に重要となる手技である。短期間(実験当日のみの使用)であれば、翼付針や套管針などの一時的なカニューレを用いることができるが、一方、長期間使用する場合には、生体適合カニューレの外科的留置が必要となる。このような方法を用いることで、動物の苦痛や不快さを最小限にとどめつつ、反復採血を行うことができる。subcutaneous vein access ports(皮下静脈アクセスポート)の使用も、そのポートを埋め込んだ動物を群から隔離せずに一緒に飼育できるという点で有用といえるが、下記に示すように、取り組まなければならない問題も数多く存在する。

(ⅰ) 外科的処置(手術)の技量が不可欠であり、長期間にわたり良好な結果を得るため(Popp & Brennan 1981)には、また、感染症などの合併症を避けるためには、外科的処置を無菌的に行わなければならない。血液凝固が頻発し、採血及び物質注入延長の妨げるになるおそれがある。
(ⅱ) 動物がカニューレを抜いたり、噛み切ったりしないように、動物の拘束や群からの隔離が必要であり、長期間使用する場合にsubcutaneous vein access ports(皮下静脈アクセスポート)が好ましいのはこのためである。
(ⅲ) 長期間カニューレを挿入しておくと、血管を貫通することがあり、また動物が成長しすぎてカニューレを使用できなくなるおそれもある。

(7) 麻酔

 BVA/FRAME/RSPCA/UFAWの最初の報告(1993)に、各種麻酔薬が脾臓被膜の筋細胞(存在する場合)にどのような影響を及ぼすかについて幾つかコメントが示されており、この他に、止血を促進する点についても述べられている。実験用小動物からの採血に関して、注目すべきことに、midazolam(Hypnovel)併用下もしくは非併用下でfentanylとflunanison(Hypnorm)を併用すると、いずれの動物種においても著明な末梢血管拡張が生じる。この末梢血管拡張により採血が一層容易になるが、その一方で、採血後の出血も生じやすくなる。そのため、確実に止血するよう、特に注意を払わなければならない。局所麻酔薬の使用を考慮すべきである。

(8) 結論及び推奨事項

 現在では、すべての動物種から、特に以前は採血が容易でなかった小型のげっ歯類からも採血できる様々な代替法が存在する。そのうえ、採血法の中には、麻酔薬を必要とする方法や、特に反復採血を行わなければならない場合に動物愛護に重大な影響を及ぼしかねない望ましくない副作用を高率に発現する方法もある。そこで我々は下記事項を推奨する。

(ⅰ) すべてのげっ歯類に推奨される採血経路は外側尾静脈、舌下静脈、及び外側足根静脈であり、ウサギについては耳介周囲静脈、耳介中心静脈、及び頸静脈が推奨される。
(ⅱ) 回復をみながら眼窩静脈叢より採血する方法は、他の経路からの採血が不可能な場合に限り使用する。
(ⅲ) 心臓採血は全身麻酔下で、動物を致死せしめる最終処置としてのみ実施する。

 最後に、動物を用いるすべての実験操作と同様に、組織の損傷を最小限に抑えて確実に採血を行うには実験担当者の熟練と能力がきわめて重要であり、動物の健康と愛護のためにも不可欠である点を強調しておく。


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